(8)郷土博物館 その2



ニコライの案内で、アバカン市の郷土博物館を見て回っている。

ここは彼のお母さんが館長を務める博物館だそうで、『好きなだけ写真を撮って構わない』と言われていた。




●館内の様子・続き
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KOU:「わー、すごい景色」

ニコライ:「これは『クルガン』という。君の国にも『コフン』があるだろう。あれと同じだよ」

KOU:「『コフン』って『古墳』の事?」

ニコライ:「そうだよ。日本には、たくさん遺っているだろう?」

KOU:「『仁徳天皇陵』とか知ってるの?」

ニコライ:「『ニントクリョウ』、『ジンムリョウ』、知ってるよ。『アスカ』の『ウネビヤマ』は綺麗なとこらしいね」

すごいな、明日香村ポタった時のブログ見せれれば喜んでくれそう。WI-FIあればなあ。













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ニコライ:「日本のコフンの構造とほぼ同じさ。石組の部屋の中に、お墓がある」

KOU:「この写真の場所は、ここから遠いの?」

ニコライ:「そうでもないが、100km・・・いや、200kmくらいかな。見に行きたいのか?」

KOU:「そうだね。すごい景色だから。でもまあ、予定組んであるから、諦めるよ」

(この後ニコライが連れていってくれたアバカンの丘で、クルガンの景色が見れた。別記事の最後の写真)














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ニコライ:「これは○世紀のハカシアの兵士の姿だ。そして、その武器が・・・」

確か8世紀とか言ってたかなあ・・・














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ニコライ:「ハルバード、ランス、アクス、モーニングスター・・・」

KOU:「モーニングスター?」

ニコライ:「知ってるか?」

KOU:「ゲームの中でだけ見た事あったけど、実在の武器だったのか」

ニコライ:「ゲームの中では体格によって使う武器が違うような扱いが多いかも知れないが、

    実際は、民族によって使う武器が事なったんだ。ゲルマン人は○○、××人は××・・・」

KOU:「こんなの喰らったら、クリティカルな事になりそうだね」

ニコライ:「武器だからな。致命傷を与えられなければ、役に立たない。

     その打撃に対抗しようとしたのがヨロイだよ。そこの鉄の板切れはヨロイのプレート。

     チェーンメイルは、まあ、見れば判るよね」

KOU:「防げるの?」

ニコライ:「完全には無理だけど、致命傷を防げる可能性は上がる。

      何も着なければ、当たったら大体致命傷だから」















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おお~、これは、もしかして・・・

ニコライ:「昔のアバカンだよ。町を壁で囲んでいたんだ」

















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進撃の巨人や、あるいは昔のRPGに出てくる城塞都市そのもの。でも、本当に町だとしたら人口100人なさそう。

町の全人口が100人なら兵士の数はその半分以下だから、とてもこの規模の町を賄えきれない気が。

そんな事を考えると、アバカンの町というよりも兵士の居留地だとか前線基地の様なものかしら(・・)?

もう少し、ちゃんと聞いてくればよかった。

















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ん、これは・・・
















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KOU:「あっ、これ、モンゴルの『ゲル』じゃないの?」

ニコライ:「『ユルタ』という。確かに、モンゴルのゲルと同じく遊牧民の移動式の住宅だよ。

     この家は模型だからこちら側の壁が無いが、実際は当然こちら側にも壁があり、

     中央部(洗面器みたいなかまどの手前側)に出入り口のドアがあるんだ。窓は無い」

KOU:「冬、大変な寒さだろうしね」

ニコライ:「本当は、家の外側を厚手のフェルトの布を何重にもして重ね巻きして、寒さに備えるんだ。

     冬の寒さにも、十分に耐えられるぞ。

     あと、この家は中心から右手側が女性用の空間、左手側が男性用の空間になっている。

     日中は、一緒の場所にいないんだ」















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男性側の空間の、長持ちの上には手の込んだ装飾が施された馬の鞍が。

遊牧民にとって家宝のようなものかも知れないもんな。判る気がする。












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さっきは美しいシャーマンの写真に魂を抜かれたが、こちらはシャーマンのマネキン。

何も学ばすにこれだけ見たら、「ふーん」と一瞥を与えて次に進むとこだが、今の僕には興味深い。

ニコライが言うには、左手に持っているのが『ドラム』であり、その裏側に叩く為の棒が収納されているのだとか。

帰国して、民俗音楽に興味を持っている同僚にこれ見せたところ、ものすごく興奮していて、

「ねえねえ、どんな音楽だった?」と訊かれた。

KOU:「音楽?そういや、太鼓抱えていたな・・・」

KYOちゃん:「シャーマニズムっていったら音楽がつきものでしょ。そんな事も知らないでこれ見てきたの?」

うーん、世の中、知らない事だらけだな。














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ニコライ:「下にあるのは『チャトハン』。この楽器に見覚えがあるだろう」

KOU:「日本の『箏(こと)』にそっくりだよ」

ニコライ:「『コト』と弾き方も同じだよ。民謡や、詩を謳う時に使うんだ。

     上の楽器は『ウィーハ』。これも、使う時は同じだ」

KOU:「あ、こっちの楽器も日本に似ているのがあるな・・・三味線じゃなくって、なんだっけ・・・」

ニコライ:「『サンシン』か?リューキューの」

KOU:「サンシン、知ってるの?」

ニコライ:「勿論だとも。しかし、サンシンは弾く弾き方だろう。近いのはチャイナの『アルフー』だよ」

KOU:「アルフー?・・・ああ、『二胡』(中国語読み:アルフー)の事か。なるほど、あんな音か・・・」

しかし、まさかこの町で「リューキュー」とか「サンシン」なんてワードを聞くとは思わなかった。

さっきも「ホッカイドーのアイヌ」や「ジンムリョウ」、「ウネビヤマ」なんて言っていたけど、

彼は僕よりも日本の古代史を正確かつ学術的に把握しているのかも。。。















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なお、この郷土資料館には「2F」があり、そちらには郷土の富豪のおばさんが生前にコレクションした、

おもに欧州のものを中心とする『面白いコレクション(ホンモノかよ!とツッコミたくなるモノ等)』がある。

そちらは、行ってのお楽しみ(笑)



















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ニコライ:「KOU、これはハカス共和国の地図だ。この中に日本人が収容されたキャンプ(収容所)が5か所ある。

     それは、ここと、ここと、ここと、ここと、ここだ」

じいちゃんが収容されたチェルノゴルスク・チャイナゴール収容所の他にも4か所あったのか。

サヤン山地に近いエリアにもあったんだなあと思わされた。

KOU:「そうか。そんなにたくさんあったなんて、知らなかった。ありがとう」













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第二次世界大戦の戦勝国のソ連(ロシア連邦)では、戦争の困難さ、それに打ち勝った歴史を紹介する展示が多いそう。

第二次世界大戦におけるソ連の戦争関連死は最低でも2,000万人以上であるとか。

敗戦国・日本の10倍近い数の死亡者数。

普段、あまり考えない事だが、複雑な気持ちになる。
















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KOU:「わー、なんて綺麗な湖なんだ。これもハカス共和国にあるの?」

ニコライ:「○○山脈(アルタイ山脈だったかなあ・・・)の中だね。ここには日本人も来るぞ」

KOU:「え?ホントに!?」

ニコライ:「ごく、たまにだけどね」

KOU:「だよね」

ニコライ:「ハカス共和国でも有名な名所だよ」














●再び、研究室へ~He was an engineer of the agriculture.

ニコライの案内のおかげでとても有意義な時間を過ごす事が出来た。

さあ、じいちゃんの情報は見つかったでしょうか・・・?

僕たちは研究室に戻り、ニコライがあの若い学芸員に話しかけていたが、

ニコライ:「KOU、おじいさんの情報は、ここのデータベースでは見つからなかった。残念だが」

KOU:「ああ、そうか・・・残念だけど、調べてくれて嬉しかったよ」

ニコライ:「それで、提案があるんだ。君のおじいさんの情報と、日本から孫の君が今日訪ねてきた事を、

      ここのDBに登録させてもらいたいんだが、どうかな?」

KOU:「え?そんな事してくれるの?ぜひ、記録してほしいよ」

ニコライは学芸員に何やら話して、

ニコライ:「じゃあ、おじいさんと君の家族の写真を見せてくれ。

      この写真は、全ておじいさんの家族かい?」

KOU:「そうだ。この人が彼の奥さん、この人とこの人とこの人が彼の子供。この人とこの人は、その奥さん。

    そして、これが僕の父親だ」

ニコライ:「OK。写真はスキャンさせてもらっていいかな」

KOU:「かまわない」

ニコライは写真を学芸員に渡し、僕には紙とペンを差しだした。

ニコライ:「おじいさんの名前と、君の名前をアルファベットで書いてくれ」

僕は2人の名前をアルファベットで書いた後、なんとなく、その下に漢字でも書いた。

ニコライ:「なるほど。君たちの名前は、本当はこう書くって事だね」

KOU:「上がじいさんで、下が僕だよ。あと、じいさんの名前は間違って『シン』と登録されてしまったらしいが、

    正しくは『マコト』と読むんだ」

    その読み方も、一応、書き添えておく。

ニコライ:「おじいさんは、何の仕事(もしかしたら『任務』という意味で訊いたのかも知れない)をしていたの?」

KOU:「技術者か研究者か・・・そんな仕事だよ」

ニコライ:「え?君のおじいさんは一般市民だったのかい?」

ニコライが結構びっくりした様な反応を見せて、僕はその反応に驚いた。

KOU:「終戦の少し前に、政府の命令で兵士にさせられた。それまでは、満州で農業の技術者をやっていたんだ」

『徴兵』という言葉が判らないので、そんな言い方をした。

ニコライ:「なるほど。念のために訊くけれど、君が言う『マンシュウ』は『マンジョウ』の事だよね?」

『マンジョウ』は、満州の中国語読みだね。そして、英語でも満州=マンジョウらしい。

KOU:「その通り。マンジョウだよ」

ニコライ:「それで、何の技術者だって?」

KOU:「農業」

ニコライ:「・・・何だって?」

KOU:「だから、『アグリカルチャー』だよ」

ニコライ:「・・・『アグリカルチャー』?」

KOU:「そう、『アグリカルチャー』!」

ニコライは困った様な表情になって学芸員の方を見て何か言い、学芸員は肩をすくめた。

またこのパターンか!

僕の外国語はいつもこう。英語も中国語も発音がデタラメなので、単語が合っていても伝わらない事がある。

しかも、どうでもいい話の時でなく、肝心な時に限ってこうなるんだ。

ニコライ:「KOU、ここで英語を話せるのは俺だけだ。何か、別の言い方で言ってくれないか?」

KOU:「えっ!」

落ち着いている時なら何か出てくるだろうけど、パパッとスムーズに言い換え出来るくらい英語話せたら、

そもそも僕はこんな状況に陥らないワケだよ。

KOU:「えーと・・・麦や米とか、草や木とかを・・・土や気候に合わせて改良して・・・」(ボソボソ)

ニコライ:「ああ、そうか!」

KOU:「おお!伝わった!?」

ニコライ:「君の『ワンダーテレホン』だよ!今こそ、あれを使うべき時だ!」

KOU:「そっちか・・・。あれはWI-FIが無いと使えない」

ニコライ:「そうだ、WI-FIだ」

彼は学芸員の子にワイファイがなんたらかんたら言っていますが、女の子の反応から、無さそう。

ニコライ:「ダメだ、ここにはWI-FIは無い」

けど、待てよ・・・

音声翻訳は通信が無いとダメだけど、単語の翻訳だけならローカルで出来た筈だな・・・。

僕はポケットからXPERIAを取り出し、翻訳を日本語→英語モードにして『農業』と入力してみた。

当然、『アグリカルチャー』と表示される。

その表示を、ニコライが覗き込んできました。

ニコライ:「え?『アグリカルチャー』!?」

KOU:「何度も言ったろ!『アグリカルチャー』って!」

ニコライ:「そうか、『アグリカルチャー』だったか!GAHAHAHAHA!」

KOU:「ガハハじゃないよ!理解してるのかよ『アグリカルチャー』を!?」

急いで日本語→ロシア語モードにして『農業』と入力し、ニコライに見せる。

ニコライ:「GAHAHA!理解してる!やめてくれ!苦しい!『アグリカルチャー』!!GAHAHAHAHA!!」

なんかよく判らないけど、伝わったならいいか・・・

ニコライ:「いやあ、まさに『ワンダーテレホン』だな。素晴らしい!」

・・・こうして、じいちゃんのデータと僕の家族の写真、そして、僕がここを訪れた情報は、

郷土博物館のDBに登録される事になった。

ニコライ:「写真を返そう。おじいさんの写真はとても古いオリジナルの貴重な写真だ。

     無くさないように、大切に持ち帰るんだぞ」

KOU:「ああ。ありがとう」









●購入したおみやげ
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前述の通り、この郷土美術館で売られていた小物の柄は、僕の興味を強くひくものが多かった。

それらの説明をニコライから聞いたのは既にお土産を購入した後だったが、いい買い物したと思った。

モスクワでマトリョーシカ人形買うより、二度と行かないだろうこの土地ならではのモノの方が・・・みたいな。

ただ、残念なのは、『お皿』が帰国の移動中に割れてしまった事。

壁にかけて使う飾りもののお皿、土器で出来ていて、想像以上に脆かった。プチプチ梱包でもダメだったかも。

家に帰ってきてから瞬間接着剤でくっつけたけど、室温変化や湿度変化で自然に崩壊しそうな予感。















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これは帰りの便に乗る前にアバカン国際空港で見つけ、自分用に買ってきた。

博物館のシャーマンが持っていた太鼓。セットになっているバチは、ちゃんと裏面に収納出来る。

いつもだったらこんなの絶対に買わないのになあ・・・

模様がステキに思えたのと、写真で見たシャーマンの瞳が忘れられなくて、つい、買ってしまった。

直径15cmくらいで壁にかけて使う飾りもの。

お部屋のちょっとしたアクセントになるかしら。





(つづく)