※日本語・中国語の併記は読みにくいらしいので、分割して書く事にしました。
上海旅行の記事は文字が多くなりがちで大変・・・
上海旅行の記事は文字が多くなりがちで大変・・・
●上海城隍廟の茶房にて
300元のウーロン茶を注文したところ、お店の女の子にやや奥のテーブルに案内された。
300元のウーロン茶を注文したところ、お店の女の子にやや奥のテーブルに案内された。
テーブルの上には何やらすごく凝った作りの大きな平たい立派な木の箱がある。
席について待っていると、彼女は急須や小さいお茶碗、それに茶道具などを持って来た。
僕はてっきり1杯4000円超のお茶が出てくるのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
やがて彼女は中国の飲茶の粋を尽くしたもてなしの作法を僕の前で披露してくれた。
急須に溢れるほどのお湯を入れて、内側からも外側からもあたためている。
日本でも急須を温めるのは常識だけど、この様に溢れさせはしない。
そうか、どうやらこの立派な木箱はお湯を捨てる道具のようだ。
彼女は急須の中のお湯を、木箱の上にある蛙などを模したいくつかの置き物に注いで流した。
お湯は置き物をつたい、木箱の上面の装飾の隙間から中に吸い込まれてゆく。
なるほどなあ。
こうすれば「捨てる」という行為も見苦しくないばかりか、
客人をもてなすパフォーマンスになるということなのだろう。
次に、彼女はウーロン茶の茶葉を僕の前にそっと差し出し、その香りをかがせてくれた。
多分、かなり高級なものの筈。とてもいい香り。
その茶葉を急須に入れ、高いところからお湯を注ぐ。
『さあ、どんな味のお茶が出てくるのだろう』
そう思って仕草を見ていると、そのお茶を小さな2つの茶碗に無造作に注ぎ、ゆすぐようにしてこぼした。
当然、お茶はそのまま木箱の装飾の中に吸い込まれていってしまう。
「え?え?」
思わず声を出した僕を見て、彼女は笑ってる。
『そうか、これ、茶碗の方はお茶そのもので香りごと温めるって事か』
すごいな、こんなもてなし方も世の中にはあるんだ。なんか、鳥肌が立った。
急須にお湯を入れなおし、小さな細い茶碗にお茶を注ぐ。
その上に、やや幅の広い小さな茶碗をかぶせ、器用にひっくり返した。
果たしてお茶は、茶碗に茶碗をかぶせているという見た事もないカタチで僕の目の前に供された。
なるほど、空気に触れてお茶の香りが飛ぶ事を限界まで防ぐという事らしい。
とことんスゴイな。
『そのまま少しゆすって、かぶせてある茶碗を外して、飲む』
・・・言葉が通じないので、彼女はジェスチュアでそれを伝えてきた。
その通りにやってみる。
しかし、薄い陶器の茶碗はとても熱い・・・ハチャハチャ><;
どうにか上ぶたの茶碗を外すと・・・
ああ、ふわっと広がってくるいい香り・・・。
お猪口くらいの小さな白い茶碗を目の前にかざすと、琥珀色のお茶が輝いている。
「綺麗だな・・・」
思わずつぶやいてから、口に運んでみた。
何これ、凄く美味しい。
渋みとかえぐみが全く無く、後味も限りなく爽やかだ。
こんな美味しいお茶はなかなか飲む事が無いな。
茶葉もさる事ながら、最高のお茶を、最高の淹れ方で、
最高のもてなし方法で飲ませてもらったからなのかなあ。
1人で飲むのは勿体無いくらい。何人かでおしゃべりしながら飲んだら、最高だろうなあ。
ひとしきり感動しながらでも、1杯はすぐに飲み終わってしまう。
彼女がすぐにお茶を注いでくれる。
「・・・」
ここで僕は気がついた。
もしかして、この300元のウーロン茶って、日本でいうところの茶席の様なカンジで、
ゆっくりと談笑しながらしばらく飲み続けるタイプのサービスなんじゃないだろうか?
淹れてもらったお茶を、再び飲む。
彼女がまたすぐにお茶を注いでくれる。
彼女は僕に居心地の悪さを感じさせない絶妙の雰囲気で、そこに存在している。
しかし、いくらなんでもこの繰り返しを無言で10分も続けたら、ちょっと気まずいのではあるまいか?
『よし!』
僕は思い切ってノートとペンを取り出し、筆談にチャレンジしてみる事にした。
簡単な自己紹介を書いて彼女に手渡した。
彼女は少し驚いた様な顔でこちらを見て、そのノートの他のページを繰った。
これは老師とのレッスンで使っているノートなので、
僕がチャイ語を勉強しているのは一目瞭然だったろう。
にっこり笑って『中国語を勉強しているんですね』と書いてきた。
外国人が自国の言語を学んでいるのを見るのは、やはり嬉しいのかも知れない。
僕のチープな英語で無理矢理話しかけるのとどっちがいいか迷ったけど、チャイ語で正解だったと思った。
そこからは、今まで全く言葉が通じなかったのがウソであるかの様に、
簡単にコミュニケーションがとれる様になった。
気がつくとこのお店に入ってからなんと3時間近く、筆談で色々なおしゃべりをしている。
向こうはまだまだ付き合ってくれそうな感じ。
しかし、僕はそろそろ観光に行かなければと思っていた。
でも、せっかく知り合ったのに、少し心残りではある。
『老師がここにいれば、お互いの言いたい事がより正確に伝わって、もっと楽しいだろうなあ』
3人でお茶したら、きっと楽しいだろう。うん。間違いない。
僕は『明日老師と一緒にまた来るよ』と彼女に伝えてお店を出た。
☆☆☆☆☆☆
翌日、老師は仕事を休む友達の代わりのシフトがあるらしく、午後6時まで出てこれない事がわかった。
老師がいないと昨日の筆談以上のコミュニケーションはとれないだろう。
『お茶屋さんはやめて、そもそもの予定通り世界遺産の蘇州園林を見に行こうか』と思ったが、
あの様子だと、老師と一緒に行くのを楽しみにしてくれているかも知れない。
とりあえず事情を伝えに、10時前にお茶屋さんに行った。
彼女は昨日と同じ様にレジの所にいて笑顔を見せてくれた。
「あれ?老師は一緒じゃないのですか?」と訊いてきたので、僕はノートを見せた。
そこには老師を連れて来れなかった事情に加え、『すっぽかして嘘つきと思われたくなかったから、
それを伝える為にここに来た』と予めホテルで書いていた。
そしたら、喜んでくれたようだった。
この日は本当にそれだけ伝えて観光に行くつもりだったのだけど、お店の中に通され、お茶を飲んでく事に。
昨日よりも和やかに筆談で会話をする中で感じたのは、彼女がこの出来事を心から喜んでくれてるらしい事。
結局、お茶までサービスしてもらいながら、この日も2時間半ほど話した。もう、お昼過ぎだ。
彼女は電話番号を教えてくれた。
しかし、僕がそこに電話をかけて会話が通じる様になるのはまだだいぶ未来の話だろう。
日本茶に興味があるみたいなので、僕は『帰国してからお茶を送るよ』と約束した。
『次に上海に来た時にこの辺に来たら絶対に寄ってね』
『勿論。君のこの店に絶対に寄るよ。その時もいてほしいな』
『勿論、大丈夫。絶対にいますよ(笑)』
これらのやり取りも全部筆談だ。
僕の言葉は、特に深い意味も無いんだけど、まあ、日本語では気恥ずかしくてなかなか言えないよね笑。
・・・これは音声で。
「再見」って昔から優しい響きだなあと思っていた。
今日、改めてやっぱり優しい響きだなあと思った。
今回の旅行で世界遺産を見る時間は無くなったけど、世界遺産は半年後に行っても10年後に行っても、
30年後に行っても、まず間違いなく変わらずに見れるだろう。
でも、出会う人間はそうはいかない。
今回、彼女がここにいた事も、僕が1人でやって来てこういうお茶を頼んだのも、チャイ語を勉強してたのも、
とにかく膨大な数の偶然が重なっての出来事。
その結果、海の向こうに友達が出来たのは本当に嬉しいな。
次にまた上海に行った時、本当に王小姐はお店にいてくれるだろうか。
でも、いずれにしても、また何処かで会うんじゃないかとも思う。
その時を楽しみに、またチャイ語の勉強に励んでいきたい。
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